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伊礼斬真の事件ノート
5話〜9話
 
不良少年、伊禮斬真が難解な事件に立ち向かうコメディ推理小説


絵、文:水島晴太郎


5.動き出した鼓動
 
〜ここまでのあらすじ〜
ラリったヤンキーのようなへんてこりんな格好の少年、伊禮斬真(いれい・ざんま)は街角で悲鳴を耳にする。
その現場で彼が目にしたものは、女性を恐喝している女の子、彩(さや)の姿だった。
彼は彩によって殴られてゴミ箱へ捨てられそうになるが、間一髪彩と同じ劇団の女優、夕に救い出される。
斬真は彼女たちの寮へと運ばれたがそこで待ち受けていたのは貞子にも似た怪物女、ゆきネエだった。
彩には危険すぎる夕食をもてなされ、混沌とした夜を過ごした斬真だった・・・
 
 
小鳥の声がやけに大きく聞こえる。
カーテンの隙間からほんの少し、光が漏れてきていた。
「う〜ん、重い・・・」
斬真はうなされながら目を覚ました。
彼のおなかの上につやのある黒髪が見える
昨日出会った少女、名前は夕。
斬真は彼女の枕にされていた。
天使のような寝顔ではあったが。
寝相が良くない。
そもそも昨夜、隣のベッドで眠っていた。
一度ベッドから落ちて、こちらに這い上がったのか・・・?
芸術的ないぎたなさである。
斬真は寝るときもしているサングラスを少し上げて、腕時計を見る。
デジタルの表示がまもなく六時を刻もうとしていた。
とりあえず、なるべくそうっと夕をどかしてベッドから降りてみる。
「彩、ダメだよ!」
「ん?・・・がはっ!」
すると急に服の後ろをつかまれて、彼女に引き戻される。
振り返ったと同時、両手で首をつかまれていた。
「だからそんなにいじめちゃダメでしょう!?」
「ぐ・・・くる・・しひ・・」
ものすごい力で締めている。一瞬、落ちそうになる斬真。
だがなんとかこらえて、彼女の腕を引き剥がす。
まだこちらに向かってくる腕を必死で止めながら。
彼はふとあるものを目にしていた。
夕の右手、シンプルなシルバーのリングである。
装飾は多くないが、品のある模様が彫ってある。
ようやく落ち着いた夕の腕を置いて、リングを近くで見てみる。
「きれいな指輪だな・・・でもこれ、どこかで見たような・・・」
斬真はシルバーのアクセサリーには目がない。
彼は少しはなれた場所に掛けてある自分の紫色の服を手にとる。
ジャリジャリと音がするのは重いアクセサリーのせい。
服を着る前にその中の一つを手にとってみた。
「これは・・・」
それもリングだった。非常によく似ている。
夕のしているものをもう一度よく見てみたいが。
また彼女に近づくのは危険な気がした。
彼女はまだ何事かつぶやいて。
今度は手近なぬいぐるみを取ると、それを振り回している。
それをみて斬真は一筋の汗を垂らした。
「・・・それにしても・・・これの指輪はどこで手に入れたんだっけ・・・」
昨日は激しく頭を打ったり、いろんなことがあって疲れたりしたせいだろうか。
考え事をすると頭がズキズキする。
借りていたパジャマをハンガーにかけ、服を着てからドアのほうに向かう。
それほど大きくはない部屋。ホテルのツインルームくらいだろうか。
ソファには彩が眠っていた。
茶髪のソバージュ。
彼女は昨夜食あたり気味の夕の介抱をしていた。
「少しは優しいところもあるのかな・・・」
そうつぶやくが、なんとなく関わりたくはない。
そもそも食あたりの原因は彼女の不気味な料理のせいである。
彼はそそくさと彩の横を通り抜ける。
斬真は洗面所に向かった。
部屋にも水道の設備はあったが、まだ朝も早い。
共同の大きな洗面所のほうに向かう。
そこからシャワーの音が聞こえていた。
中に入ってみると。
3つあるうちの2つまでが使用中だ。
部屋にもシャワーは完備されていると思ったのだが。
「なんか・・・暑いな・・・」
湯気が洗面所全体を覆っていた。
斬真はシャワールームに背を向け洗面台で顔を洗った。
しばらくしてもシャワーの音には何の変化もない。
ジャーと大きく鳴り続けている。
「ん・・・?」
彼はなんとなく鏡越しに違和感を覚えて。
一度振り返ったが、それがなぜなのかは分からない。
髪をツンツンにセットして、バンダナをつける。
洗面所を出て、昨日食事をしたリビングに向かう。
リビングは一階にあり、ここは二階である。
長時間シャワーを使用しているせいだろうか。
廊下のほうまで湯気が出て、窓が曇っている。
「ちょっと・・・高いけど・・・」
斬真は壁によじ登って、廊下の窓を開けた。
窓からの眺めは良かった。
街路樹のような木々に覆われた小道。
朝のすがすがしい空気が入ってきた。
少しはなれたところに人影がある。この宿舎に続く道を歩いてきている。
少し年配の男性。遠目にも立派なひげを生やしているのが分かる。
その先にはこの建物しかない。
ただの散歩か、または劇団の関係者か。
男がこちらに来るまでにはもう少し時間がかかりそうだった。
斬真は上っていた壁から降りる。
廊下の角を曲がって、階段を下りようとするとき。
ようやく遠くに聞こえていたシャワーの音が消えたようだ。
シャワーを二人同時に終えたのだろうか。
もう彼のいる場所からはそれも確認できない。
斬真は内ポケットからタバコを取り出し、火をつけた。
げほっと、涙ぐんでむせながら、彼は静かに階段を下りていった。
6.二つの肖像
 
〜ここまでのあらすじ〜
ラリったヤンキーのようなへんてこりんな格好の少年、伊禮斬真(いれい・ざんま)は暴力少女、彩との劇的な出会い(彩による恐喝現場に出くわす)の後、あれよあれよと言う間にその友達、夕やゆきネエなどと知り合う。なんと彼女たちはとある有名な劇団の女優たち。重傷を負った斬真(いろいろな事故の後、彩に殴られた)は彼女たちの寮で休ませてもらうことに。彩特製の危険すぎる夕食(夕はこれを自殺のときに食べるといいと比喩した)をなんとか切り抜けた斬真は翌日、静かな朝を迎えるはずだったが・・・
 
 
階段を降りて、一階のメインの廊下を右に折れて進めば、そこには本館の玄関があり
その前を通り過ぎれば、昨日の夕食の騒ぎがあったリビングへとつながる。
昨日から大変な騒ぎに遭遇した斬真であったが、今朝も廊下の柱や置物などに不注意でぶつかって体を撫でたりしていた。
それにしても朝も早いせいか、館内はしんとしている。
「今日も快晴、っと・・・・」
無意味にガラス越しの青空を指差そうとして・・・
「にゃあああ〜〜!」
斬真は腰を抜かした。
そのガラス越しに見えるのは二人の男の姿。
見覚えのある顔である。
双子のような彼らは金髪碧眼、暑苦しいほどのマッチョである。
大声で叫んでしまった後にあわてて口を押さえ、斬真はとりあえずカムフラージュのため、正面に設置された等身大のマリア像にキスをする姿で動きを止めてみる。
ハーフの彼らはふと声のしたほうに視線を送り、眼を細めてから大きな汗を流した。
しばらくのときが流れ。
ハーフの男たちは相互に視線を交わして、首を振りながら同時に大きく肩をすくめた。
「なにそれ、なにそれ! なんかムカつく!」
斬真はマリア像から飛び降りて、玄関の鍵を開けて、ずかずかと彼らの前に立ちはだかったとき
・・・あっさりと首根っこをつまみあげられた。
斬真はしょげた猫のようにしばらく黙っていたが、やがて・・・
「え〜と・・・あ、あのお、もお許してあげるから、降ろしやが・・・ってください、お願いします」
斬真はだーっと涙を流しなら、降参した。
「Listen, did you see someone strange?」
顔色一つ変えずにマッチョの一人が斬真の顔を覗き込んだ。
「いえす、あい きゃん ぷれい てにす」
意味不明の答えを口走って、斬真はブンブンと首を振った。
「A serious trouble is under investigation. We are guardians of the important ring. Now we want...」
「ぷりーず ど〜ん はあと みー・・・」
と、そんな不毛なやりとりを繰り返していると
「斬真く〜ん、どこかにいる〜?」
遠くから女性の声が聞こえてくる。
斬真には聞き覚えのある声。さきほど部屋で眠っていた女性、夕の声である。
夕の部屋のある二階からだろう。ずいぶん小さく響いている。
二人のハーフも気づいたようだ。彼らはそのまま口をつぐんで耳をすませた。
と、彼女の呼び声が大きな悲鳴に変わったのはそのときだった。
「きゃああああああああああああああ!!!!!!!!!」
ハーフの男たちは斬真を適当に投げ出して、すぐに館内へと飛び込んだ
しりもちをついて「いてて」とさすった後、斬真もその後を追った。
館内できょろきょろしているハーフたちを置いて、斬真は二階に駆け上がった。
二階のメインの廊下、そこを駆け抜け、彼は洗面所の前で立ち止まった。
「あ、あ、あああ、あああ・・・」
その中には声を失ってずるずると後ずさりしている夕の姿。
「夕姉ちゃん・・・」
斬真が驚かせないように小さく声を上げると、彼女はゆっくり振り向いて首を横に振った。
「斬・・・真・・・く・・・こっちに来ちゃ・・・だめ・・・」
彼女のか細い声を無視して斬真は洗面所の奥へと入った。
そこは先ほどのずっと使用中だったシャワールームがある。
その一つを覗く。
扉が開いたそこには天井から裸で人がぶら下がっている。そこそこ若い女性である
ロープで首から釣り下げられた彼女はもはや息はない様子。
見た目に大きな外傷はなさそうである。
遺体の顔は苦悶し、あまり直視できる状態ではなかったが、斬真はしばらく見つめて
「この人・・・どこかで・・・」
小さくつぶやいた。彼の心に何かが引っかかった。
「あ、それより」
斬真は振り向いて夕を抱き起こした。
「姉ちゃん、大丈夫? 部屋に戻ってて」
彼女に肩を貸しながら部屋に戻る。
「斬真君、あの女の人、だれなの? 知ってる人?」
よろよろと歩く夕がうつろにつぶやく。
「ううん」
斬真は小さく答えて、そっと振り返った。
(姉ちゃんも・・・知らない人・・・? 劇団員じゃないってこと・・・? じゃあ・・・なぜここに?)
遅れて入ってきた二人組みのハーフと入れ替わる形でシャワールームを後にする。
ハーフたちの凍りついたの様子が背中から雰囲気で伝わってきた。
斬真は夕をベッドに運んだ後、彼が今まで歩いたのとは反対の廊下をゆっくりと歩いた。
洗面所から夕たちの部屋の前を通りすぎていく格好である。
先ほどシャワーが長時間流しっぱなしになっていたせいで廊下が少し結露していた。
廊下には結露した廊下には一つだけ長い足跡が先まで伸びていた。
それをじっと見つめて追いかける彼は一つの部屋の前で立ち止まった。
この部屋に入ったように見える。そしてここから再び出た足跡はまだ先へと続いている。
部屋の番号は「207」。
しばらくドアの前で耳を澄ましてから、ノックをしたが返事がない。
彼はハンカチを巻き、ドアノブを回したが、鍵がかかっているようだ。
足跡の先をみつめて首を傾げたが、ゆっくりと斬真は引き返してきた。
折りしも外から掛け声のようなものが近づいてきた。
斬真はまた窓によじ登ってみる。少し太陽は高くなり始めている
朝練のランニングだろうか、十人ほどの体操服の学生の集団である。
彼らは細い小道を通って、この寮のすぐ間近を通り過ぎていくコースを取るようであるが
その前方にはつい先ほど目にした立派なひげを生やした男性が歩いていた。
先ほど見かけたときからけっこうな時間がたったはずだがさほど本館に近づいた様子ではない。
特に何事もなくランニングの学生たちは口ひげの男性の横を追い抜いていった。
「なんだ・・・あの男の人・・・」
斬真は目を細めた。
「やけに小さいぞ・・・」
学生たちはおそらく中学生。遠目にだが口ひげの男の背の高さは彼らとほとんどいっしょか、まだ小さいくらい。その体格もそうである。
窓から降りてみると、洗面所でハーフの男の一人が携帯電話でどこかにかけている。
「・・・The ring is already gone・・・」
斬真にはほとんど聞き取れなかったが、そんな言葉だけが耳に残った
(指輪が消えた・・・? なんだ・・・何か忘れてる・・・え〜と、あの女の人・・・たしかに見たことあるよ・・・だれだっけ・・・)
斬真は頭をかいて取り出した煙草に火をつけた。ゆっくりと吸って、ゆっくりと吐き出す。
なんとかむせるのを我慢して彼は目をつむって思案した。
彼の耳には耳障りな英語と、そして・・・
誰が連絡したのだろう、遠くからはサイレンの音が聞こえ始めていた。
 
7.超富豪刑事
 
 
〜ここまでのあらすじ〜
ラリったヤンキーのようなへんてこりんな格好の少年、伊禮斬真(いれい・ざんま)は奇縁から彩、夕、ゆきネエといった劇団女優たちと知り合う。一晩、彼女たちの寮で休ませてもらった彼を待っていたものは見知らぬ女性の遺体だった。現場を探る斬真。奇妙な足跡。不思議な人影。近づくサイレン。動くはずのない歯車がガタンと音を立ててゆっくりと時を刻み始めたのだった・・・
 
 
間近に迫るサイレンの音は言うまでもなく警察のものであった。
前方に2台の白バイと前後合計4台のパトカーに護衛されて、とてつもなく縦に長い黒塗りの超高級車が本館に横付けされる。
その集団の後ろからもやはり複数の高級車が連なっていた。
後ろに並ぶ高級車からやくざまがいのオールバックの男たちがぞろぞろと降り立ち、その一人がパトカーに囲まれた超高級車のドアを静かに開けてゆっくりと一礼する。
その間に別の男たちが本館と超高級車の間に真紅の埃一つ無い長いじゅうたんをざぁぁ〜と一瞬で敷いた。
現れた長い脚が陽を浴びて、じゅうたんの上につく。
やがてドアをくぐったのは長身で筋肉質の男。
上質のコートに肩に掛けてもらう彼は物静かだが鋭い眼光を放つ男だった。
ずっと頭を下げたままのオールバックのほうをちらりとも見ないでただ前方を直視している。
抜群のセンス、スタイル最高、天下一品の男前である。
高級腕時計と無数のジュエリー。ブランド物のシャツ、背広、ネクタイ、靴、総額いくらになるのか想像に難しい。
歩を進めるたび、男のくせに似合いすぎる背中まである彼の真っ直ぐな黒髪が揺れる。
彼はどうやらこの集団の親玉に間違いなさそうである。
じゅうたんの両端には十数人にも及ぶやくざまがいの男たちが整列して最敬礼をしている。
いつの間に現れたのだろう、端のほうで数人のプチオーケストラが生演奏を始めていた。
その演奏のようにすべてが統率、指揮された乱れや無駄の無い男たちの行動は芸術と言いえるかもしれない。
もっともパトカーから降りた警官たちは大きな汗を一筋流しながら、ただただ呆然とそれを眺めている様子であったが。
じゅうたんを歩く男の後ろには足の付け根までスリットの入った妖艶なワイン色のドレスを着た女が従っていた。
彼女はいい具合に酒が入っているかのよう、意味もなくくるくると踊りながら細い腕を伸ばす。
すると空からヒュルルルルゥゥという笛の音のようなものが聞こえた。
まもなく陽光をさえぎって大きな影が旋回しながら降下してきた。
彼女の腕に降り立ったのは巨大な鷹であった。
「・・・」
その様子に警官たちは唖然として今度こそ言葉を失った。
親玉の長身の男がつと足を止めた。振り向くことはぜずに
「現場は?」
低いながらもはっきりとした声を上げた。
「はいぃ〜、二階のようでぇす。 Right”さんと”Left”さんが現場の見張りをしてますぅ」
鷹を抱えた女が間延びした声で舞いながら応じる
「伊禮斬真とやらもいるようだな」
「おっしゃるとおりでぇ〜す。時雨魔(しぐま)様もご存知のとおり彼の前科は無数、正当防衛を含む3件以上の殺人容疑のかかっている折り紙つきの極悪少年ですぅ」
時雨魔と呼ばれた男はここでゆっくりと女のほうを振り向いた。
「百合亜(ゆりあ)、今回の件をどう見る?」
「わたくしはぁ伊禮斬真が主犯でなくとも何かしらの関わりがあると見てまぁす」
女の名は百合亜というようだ。
彼女は切れ長の賢そうな瞳をきらきらさせて、バレエのような、あるいは盆踊りのようなダンスを永遠と続けている。
「・・・」
男はそこまで聞くと無言でコートをひるがえし、館内へと足を踏み入れて行った。
 
+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−
 
斬真は何本目かの煙草に火をつけていた。
猫型の小さな携帯灰皿が近くに置かれていた。
灰をその中に一度落としてから、口にくわえる。
(この事件はなんだかおかしなことばかりだ・・・)
彼はハーフの男たちの後ろから女性の死体を眺めていた。
シャワールーム自体二つに区切られており、脱衣所と奥のシャワー室である。
女性は奥のシャワー室で、裸のまま遺体となっている。
脱衣所に置かれた衣類はきれいにたたまれている。
衣類の上には小さな紙切れが二つ折りにされている。中には何か書かれているのだろうか。
(もしかして遺書なのか? あるいは・・・犯行声明? まさかね。内容を見たいなあ)
鑑識が入るまでは現場を荒らすわけにはいかない。
女性はシャワールーム天井の換気扇の鉄格子にロープを巻いて首を吊っている。
ロープもしかし、よく見てみるとただのビニールの紐である。
縦の伸びにはとても強いビニール紐。それを2重にすれば人一人の体重で切れることはないだろう。
足元には少し高さのあるプラスチックのいすが転がっていた。
斬真はこのいすには見覚えがあった。
(どこにでもあるものばかり・・・)
斬真は改めて洗面所全体を見渡した。
そこはけっこうな広さがあり、大きく3つに区切られている。
まず入ってくると大きな鏡の前に座ることのできるスペースがある。
この場所では髪を乾かしたり、シャワー後にゆっくりできるようになっている。
例の現場に転がっているいすはここにあるものと同じで、ほかにも数脚置かれている。
ここを通りすぎると奥へと連なる6つの洗面台が並んでいて、洗面台と平行に3つのシャワールームが並ぶ。
洗面台に向かえば、背後にシャワールームがある形になる。
一番手前のシャワールームが今回の現場となった。
(自殺と考えた場合に不自然な点は衣類をつけていないことと・・・)
斬真はふと廊下のほうを見た。
やはり気になるのか夕が部屋から出てきて、入り口の壁にもたれるようにして、斬真たちのいるほうを青い顔でみつめている。
彼女は今回の遺体の第一発見者でもある。
(もう一つは、この問題の女性が劇団員の夕姉ちゃんの知らない人だってことだ)
ここは劇団員の女性寮である。
そう考えれば、たしかに夕の知らない人がいるというのはおかしな話である。
(やはり殺人事件か)
とりあえず遺体の身元確認が必要であった。
斬真は現場を離れ、ふと廊下の先、階段のほうを見た。
折りしもそのとき、高級なブランド品に身を包んだ長身の男の姿が現れる。
なぜか踊り続けている一人の女性と何人ものボディガードらしき男たちが後に続いてくる。
女性は大きな鳥を抱いていた。
言うまでもなく、超高級車から降りてきた男とその取り巻きであった。
後ろから申し訳なさそうに警察の方々も顔を出している。
「あああああ・・・・」
斬真はその姿を見るや、震えて彼らが来るのとは反対方向をぎぎぎっぎこちなく向いた。
「ごめん!姉ちゃん、急用ができちゃった! またね!」
夕にあいさつもそこそこ、全速力で走り出す斬真。
長身の男、さきほどは時雨魔と呼ばれていたが、彼はゆっくりと懐から金属のわっかが鎖で繋がったものを取り出す。
手錠である。
男は造作もなくそれを放り投げた。
くるくると回転しながら飛んでいく手錠は正確に斬真の片方の足首に音を立ててはまり、そのままもう片方にも巻きつく
両足が固定されて、斬真はあっけなく倒れた。
「ななんだ・・・と、とれない・・・」
無言で詰め寄ってくるやくざまがいの集団と警察。
しりもちをついたまま、じりじりと後退しながら、
「まずいまずいまずいまずいまずい・・・」
斬真はただただ恐れおののいてしまうのだった。

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